宿のカウンタ、アマディスはひとりで頷いた。とても満足げに。
 なんとなく、なんとなくだが、最近セリオとの息が合ってきた気がするのだ。戦いでもそれ以外でも、お互いの役割をもって、話さずともどう合わせたらいいか分かる。気がする。
「やっぱり、なんか最初会ったときビビッときたもんな!セリオとなら、こいつとならうまくやれるって…!」
 誰もいないカウンタに向かい、自信たっぷりに言い切るアマディス。ドアを開けて入ってくるセリオ。
 セリオは白けたような視線をアマディスに向け、忘れ物らしい本をカウンタから取るとさっさと去った。

「…………。」
残されたアマディスは、むなしさのままぬるすぎる白湯を飲む。
 セリオはいつもああなのだ。機嫌がいいときはともかく、普段は本当に愛想が悪い。宿の親父にも、先輩冒険者にも、依頼人にも、誰にだって無愛想で不遜で態度がでかいのだ。これにはいつもひやひやしてしまう。

 誰に対しても変わらない態度は、化け物に対しても変わらない。変にやさしさを向けられるよりも、同等と見られているような、そんな夢想を裏付けてくれる。
(同等…………いいや、)
下に見られてる、間違いなく。アマディスはそっと苦笑を浮かべた。
 ふと思い出す、初めてセリオの血を飲んだ日の夕方。食い殺してしまうのが怖いと詰め寄る自分の喉元にダガーをつきつけて言い放った言葉は、一字一句違わず憶えている。
 ああ言ってくれるからこそ、あいつに背中を預けよう。いつか、俺が化け物になった時の為に。背後から斬り捨ててもらうために。





────── 『大した思い上がりだな、雑魚が。返り討ちにしてくれる』

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