アマディスは目を覚ました。
 辺りは真っ暗。夜だった。身を起こすと、体に掛けられていた毛布がずり落ちる。
 体中が痛い。固い床で寝ていたのだ。痛さとだるさにうめきながらふと横を見ると、ほのかな月明かりに浮かび上がる人影。セリオが少し離れて見ていた。
「ああ……悪りぃ。昼寝して、それから夜まで寝ちまった感じか?」
 記憶は妙にあやふやだった。なんとなく想像しセリオに言うと、セリオは低い声で返した。
「気絶したんだよ、あんたは」
 月を背にセリオが立ち上がる。逆光。座っているアマディスには、セリオが妙に大きく、恐ろしく見えた。
 何か、持っている。それが月明かりにぎらりと光る。セリオがサブ・ウェポンとしてもっている大ぶりの短剣だ。
(あんなに大きかったっけ)
 アマディスは座ったままじりじりと後退した。
「……なんだよ」
 小声で聞くと、セリオの隻眼がアマディスを見下ろした。
「あんた、吸血鬼なんだよな」
 はっきり言われて、アマディスは身を縮めた。
「……」
「あんた、体調が悪い様だな。……理由は自分で知っているだろう?」
 アマディスは目をギュッとつぶった。応えなかった。応えたくなかった。
「血を飲まなきゃ死ぬってことは分かっているだろう」
 何故一切飲もうとしない?そうセリオに問われ、アマディスは声を絞り出した。
「……いやだ」
「何故」
「…………いや、だ」
「……」
 セリオが一歩前に出た。
「あんた、死ぬぞ」
「別にいい」
 アマディスはヒュウッと息を吸い込んだ。
「化け物になるくらいなら、死ぬ方がマシだ」
「知るか」
 セリオは無表情だった。
「あんたは既に化け物なんだよ」
 セリオが袖を捲り、短剣を左腕に突き立てた。
 噴き出す液体に理性が飛ぶのをアマディスは感じた。




 薄汚れた毛布が綺麗に染まって、
 お互いの衣服はやたらごわついて、
 



 目を覚ますと体のだるさが嘘のように消えていた。
 その事実に嫌悪を覚えながら身を起こすと、ごわごわした毛布がずりおちた。
 横を見やると、日を背にしてセリオが立っていた。太陽の光に少しだけ肌がピリピリした。
「掃除が大変そうだな」
 他人事のようにつぶやいたセリオは、アマディスをみてうっそりとした笑みを浮かべた。
「我ながら、なんで生きてるのか不思議だ……血が足りない。今日は依頼は請けずに寝る。掃除は頼んだぞ」
 そういうと、セリオは何事も無かったかのように欠伸をし、自分のベッドにもぐりこんだ。
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